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盛岡家庭裁判所 昭和59年(少)1674号 決定

少年 G・H(昭四五・四・二三生)

主文

少年を初等少年院に送致する。

理由

(申請の趣旨)

少年は昭和五八年一二月一九日付で岩手県立社陵学園へ入所したが入所後一一か月を経過する間に昭和五九年二月一二日を初めとし、同年一一月一九日まで前後一一回の無断外出を繰り返し同学園の教護に服さない不安定な状態にあり、その無断外出中には車上狙い、空巣という大胆な手口の窃盗を繰り返し、その都度の指導によつても同様の行為を行い、反省がないうえ、現在は無断外出のまま帰園を拒否しており、開放的な教護院での指導監護は限界にあるから、強制力を行使できる施設での保護処分を求める。

(非行事実及び適用法令)

司法警察員作成の昭和五九年一二月一四日付少年事件送致書記載犯罪事実のとおりであるからその記載を引用する。

犯罪事実 (一) 刑法二三五条

同 (二) 刑法二四六条二項

(処遇の理由)

1  少年は昭和五八年中に行つた一連の窃盗行為などにより同年一〇月二九日、○○警察署長から岩手県宮古児童相談所へ児童福祉法二五条の通告をされ、一時保護の後同年一二月一九日付で教護院措置の決定により、岩手県立杜陵学園に入所した。

少年は上記入所後も上記申請の趣旨記載のとおりに昭和五九年中に一一回の無断外出を繰り返し、そのうち第七回目の同年五月二八日から同年六月一〇日までの外出中に起した窃盗保護事件により教護院措置の継続を前提として同年一一月二日に当裁判所において審判不開始の決定を受けている。しかし、その後も少年の無断外出は続き、その間に本件窃盗等を含む非行を重ねている。

2  少年の非行は上記のとおり主に窃盗行為であり、同種の問題行動は小学生時代から認められ、その手口も万引、自転車盗から空巣車上狙いと急速に種類を広げ、さらには本件無賃乗車にみられるように非行を学習しその程度を深くしている。すなわち、少年は無断外出をして他からの抑制がない状態では自己の欲求のままに財産犯を重ねその非行性は顕著である。

3  少年の非行の原因は直接には教護施設への不適応からの無断外出を繰り返すためその間に必要な金員、物品を入手することを目的としている。しかしその動機には上記2のとおり少年の著しい犯罪傾向が認められる。少年がこのような傾向を持つに至つたのは少年の衛生観念の欠如、基本的な日常生活の習慣が身に付いていなかつたことなどから窺われるようにこれまで家庭において健全な人格を育成するための適切な教育がなされなかつたためと考えられる。また、少年の父母において社会の中で円満な対人関係を維持するうえで若干配慮に欠けた面があつたため少年の家庭が地域社会から孤立する傾向があり、これまで少年は正しい自己を確立する機会となる真に共感を覚えるような人間関係を持てなかつたと窺え、そのために少年は人よりも物質や金銭に対する欲求を強く持つようになつた面がある。

4  そこで、少年の処遇を考えるに、少年には基本的な生活習慣と規範意識を身に付け、健全な社会人としての自己を認識できるような教育指導が必要である。少年の家庭は父親が漁船員として長期不滞のうえ、しばしば音信が絶えるなどこれまで少年に対する父としての正しい接触が無かつたうえ、母親も現在のところ少年の更生を願いながらも生計の維持に追われ、一貫した姿勢で少年の教育をするだけの余裕は無いと考えざるを得ない。

また、少年は教護施設に対し著しい不適応感を抱いており、たとえ一定期間強制措置をとつたとしてもその指導に充分な効果が期待し難い。そこで少年に対しては相当期間隔離された施設において情緒の安定をはかりながら専門的な指導を加えていく必要がある。

よつて少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項を適用して少年を初等少年院に送致することとする。なお、本件強制措置許可申請には岩手県宮古児童相談所長作成の送致書によれば副次的に申請の趣旨記載の無断外出等をぐ犯事由とした保護処分を求める送致の趣旨を含んでいることが明らかであるから、強制措置不許可の点について主文には掲げない。

(裁判官 鎌田豊彦)

昭和五九年少第一五三七号、同一六七四号

昭和五九年一二月二〇日

盛岡家庭裁判所

裁判官 鎌田豊彦

盛岡保護観察所長殿

環境調整に関する指示事項通知書(少年法二四条二項)

住居岩手県釜石市大字○○第×地割××番地××

少年G・H

昭和四五年四月二三日生

上記少年に対し、本日付で初等少年院送致の決定をしましたが、少年には少年調査記録によつて明らかな家庭環境の問題があり、現在の状況では少年院の矯正教育に引き続くべき在宅処遇が困難と考えられるので以下の事項を考慮しながら少年の家庭環境の調整を計つていただきたい。

1 少年の父母に対しできるだけ少年との面会又は文通を行い少年に対し励ましを与えるよう指導すること。

2 現在少年の家庭が負担している債務を整理するための調停・破産等法律上の手続及び生活保護等の公的な生活援助を受ける手続の指導

3 少年が仮退院となる場合、少年の伯父の妻A子ら少年の親族との間においても保護観察の実施にあたつての協力を得る体制を作ること。

なお、上記指示について若干の理由を付記すれば、少年の父は漁船員として家庭には不在なことが多いだけでなく、しばしば家との連絡が絶えることもあつた。一方で公的機関の少年の処遇に批判的態度をとり、真に少年の更生を考えた行動をとることがない。反面母親は少年を溺愛することはあつても少年を客観視して指導することが出来ず、また借財などの家庭の経済状態から少年の更生に必要なだけの時間を持つ余裕が無い状態にある。

従つて、少年の家庭に少年の更生していく地盤となれる環境を作るためには少年の母親に対し、少年のために必要な真の指導を考える余裕を持たせる必要があり、そのための条件として少くとも上記の程度の指示が必要と考える次第である。また、今後少年の父母が離婚する場合には保護観察機関及び上記A子らによつて少年に強い指導を与えられる父親の不在を補える体制を作られるよう指導されたい。

〔参考〕司法警察員作成の少年事件送致書の犯罪事実

一 被疑者は、昭和五九年一一月一七日午後七時頃、岩手県釜石市大字○○第×地割地内、○○神社境内において、さい銭箱の裏蓋を開けその中から、同神社管理人B管理のさい銭一、三〇〇円を窃取したものである。

二 被疑者は、昭和五九年一一月一九日午前九時過ぎ頃、岩手県盛岡市○○×丁目××番××号付近路上において、有限会社○○タクシー所属のタクシー運転手Cに対し、所持金がなく目的地到着後料金を支払えるあてがないのにあるように装い、「釜石の市民病院まで、母さんが入院しているので、釜石に着いたら父さんから金を貰つて払うから」と申し向けて同人の運転するタクシーに乗り込み、同人をして目的地到着後直ちに料金の支払いが受けられるものと誤信させ、よつて、同所から同県釜石市○○町×丁目××番××号先路上まで右タクシーを運転走行させ、もつてその料金二〇、二八〇円相当の財産上不法の利益を得たものである。

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